数年前から、母に何度か
「お前が生まれたときに植えた梅の木にやっと花が咲いた」 
と言われていた。

だけど私はその木を見なかった。
庭の何処にあるのかすら、知ろうとしなかった。

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今回実家に帰ったとき、また母に梅の話をされた。
「その木はどこ?」私は初めて母に聞いた。

初めてその存在を確かめて愕然とした。
あまりにも戸の目の前、どう考えても常に視界に入るような
目立つ場所に植えてあったからだった。

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30歩もあるけば一周できる位狭い庭なのに、
どうして場所を確かめようとさえしなかったんだろう。

興味が無かった?
見たくなかった?

自分は親から愛されなかったという不幸物語に
一貫性を持たせるために、邪魔だった??

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母「妹が生まれたときにも植えたけど、それはじいちゃんに伐られてショックだった」
私「なんで伐られた?」
「多分場所忘れとったんやろう。」

祖父に悪意はなかったと思う。

ここでふと思った。
そういえば昔私は、祖父が妹の事ばかり可愛がると言って泣いた。
もしこの木の伐採エピソードが逆だったら、
「やっぱり祖父は私のことが嫌いだったんだ」と
かわいそう伝説を強化していた、そんな気がする。

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私「なんで梅の木を植えたの?」
母「出生届を出した時に役所からもらった」
私「○○藩の家紋だから梅なんかなぁ」
母「いや、いくつか選択肢があって、その中から私が選んだ」

母が選んでくれたという事実が、なんだか嬉しかった。

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存外たくましい太い枝を見て、時の経過を感じた。
梅の木は、ビニールテープで引っ張られて固定されていた。
母に「このヒモ、なんで?」と聞いたら
「こっち側にくると洗濯物にぶつかるから」
とのこと。

梅は自由に生えていたいし、生える力もある。
しかし、親からみて「そこは邪魔」という理由で、
伸びる方向を変えられている。
親に悪気はない。

なんだか自分みたい、そう思った。

そして視線をずらすと、蕾が数個ついた枝が
折れて皮1枚でぶらーんと垂れ下がっているのを発見した。

私「折れとる…」
母「あれ?なんで」

多分母くらいしかそこは通らないから母の仕業だと思ったけど
母は今気づいたことを強調していた。

しかし私は母を責めなかった。
普段から庭の手入れしてくれてるのが母だから確率的に母のせいになるんだと思った。
折れた原因などどうでもいいし。ただ折れてるという事実を見て

なんだか自分みたい、そう思って、折れた枝を水にさした。

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水にさした翌日、早速一つの蕾が花開いた。

「折れとった枝なんに。部屋の中は暖かいからかなぁ。」と私は言った。
母は「そうやけど水にささんと咲かんわ」と言った。

一旦ポッキリ折れたところから
環境を変えたことによって回復していく姿が

なんだか自分みたい、と思った。

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その翌日は私が実家を発つ日だった。
もう一つの蕾が開いた。


なんだか自分みたい、と元気をもらった。2013-02-10 018